2014年5月2日金曜日

J.クリシュナムルティ『子どもたちとの対話』1992

Time誌が選ぶ20世紀の聖人5人の中で、ダライ・ラマやマザーテレサとならんで選出されているクリシュナムルティ。
彼が子どもたちに向かって行った講話の記録である。

クリシュナムルティは、15歳の時すでに神智学協会の指導者によって見出され、「星の教団」の指導者となる。その後、「真理は道なき土地であり、組織できない」として教団を解散させてしまう。

ここまで聞くと、オカルティックな「触れてはいけないタイプの思想」のような気がするが、一般的なそうしたカルト的思想に見られるような難解な概念語は全く出てこないし、言っていることは終始一貫していてドグマ的な要素もない。

クリシュナムルティという人は、日本では教育に興味がある人にとっても非常にマイナーな人間である。知っているという人に会ったことは殆ど無いのだが、これもめぐり合わせか、過去一度だけイベント企画でお世話になった友人がクリシュナムルティを知っていた。

お互いに「なんで知ってるの!?」という興奮から、「勉強会をしよう」という話になり、カフェでクリシュナムルティを巡って話し合ってきた次第である。

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クリシュナムルティの思想は明快で、要は「条件付けに気づき、観察しつづけることで自由になれる」ということである。
条件付けというのは、我々の思考や行動は、絶えず生起する様々な欲望や恐怖、不安を紛らわすための一種の防衛反応として無意識に反応してしまっているということである。

例えば、「もっと実力をつけたい」という思考は、実力がないことによって自分の価値が否定されることへの恐怖によって条件付けられている。
繰り返される思考は、思考することでそうした恐怖から目を背け、紛らわせようとする反応なのである。

我々はこうした無数の条件付けによって、苦しいこと、辛いことから目を背け、誰にも否定できないような美辞麗句を並べ立ててセルフブランディングに勤しんだり、何か一つの信念に固執したりする。

こうした条件付けが、恐怖や不安によって起こっていることに気づき、ひたすら観察すること(あるいはクリシュナムルティは「ありのままを観ること」と呼んでいるが)によって、我々は真に豊かな生に目覚めるのである。


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このクリシュナムルティの言っていることは、まさに我々が「内省」と呼んでいるものに近い(特に、仏教における「観< vipassanā>」に類似していると感じた)
内省とは、無意識を意識化するプロセスである。
内省の中で認知される自身のメンタルモデルは、最も深いところで確かに恐れや不安といった感情と結びついている。

クリシュナムルティは、こと教育に情熱を注いだ人でもあり、インドに5校、アメリカに1校、イギリスに1校、クリシュナムルティスクールと呼ばれる学校を設立している。
クリシュナムルティの教育理念は、子どもたちがこうした条件付けに縛られないように支援する、というものだ。
教育における内省の重要性について問いなおす上で、クリシュナムルティの思想は非常に参考になると思われる。


この著作を読んで感じた疑問は2は、クリシュナムルティは、既存の学校システムを恐怖によって条件付けられているとし、子どもたちには、条件付けから自由になるためにそうではない安心できる空間を提供しなくてはならないとしている。
しかし、現実的にはそのような条件付けに縛られている人、システムが社会の中では至るところに見られるし、我々が成長していく中でそうした条件付けに縛られてしまうことはある種必要なことのように思われる。
全てに自覚的であるとしたら、様々なことが気になって他者とのコミュニケーションなどできないだろう。条件付けもまた、我々にとって生きていくための一つの方策である。
また、子どもの発達段階を考慮した際に、幼い段階からこのような高度な内省能力が身につくのか、といった疑問もある。

つまり、条件付けによって縛られる、というのは一つの発達段階として捉えるべきではないか、ということである。
条件付けによって縛られるからこそ、その条件付けを自覚できるようになるのだ。
そうした意味で、端から縛られない教育というのは志向されるべきではあるが現実に完全に実現されないし、されるべきではないと思う。

クリシュナムルティは、そうした条件付けから究極に自由になった段階、かなり高度な段階について述べているが、その間の段階については言及していない。(発達的な発想が見られない)
そのため一見してとっつきづらく、難解に感じられるのではないかと思うのだ。
ここはインテグラル理論的に段階という概念を持ちこむことで、クリシュナムルティの言っていることが我々の現在の延長線上にあることを実感でき、理解できると思う。

本書は子どもたち向けに話された内容であるため、要諦を掴んでしまうと少々冗長に感じる部分もある。
クリシュナムルティは他にも教育について語っている本があるので、ぜひとも読んでみようと思う。

自分の理解について、話すことでより思考が明確になり、とても文章が書きやすいことに気づいた。


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