2015年4月2日木曜日

H.R.シャファー『子どもの養育に心理学がいえること』1990

「家族の貧困は、子どもの発達に影響するか?」「最初の愛着形成はいつまで遅れて良いか?」
といった、発達心理学から、子どもの養育についてどんなことが言えるのか?という興味を持っている人にとって絶好の入門書だと思った。

上記にあげたような20のテーマについて、信頼できる研究を並べ、学術研究としていえる書かれた時点での結論を慎重に述べている。
ただし、扱っている段階は乳幼児、児童期にどちらかというと比重がおかれている(もちろん縦断的な研究も数多く含まれるので、青年期や成人期について言及している箇所は多くある)


概してこうした研究から得られる示唆は、必ずしも臨床の場においてはっきりとした問題解決の方針を示してくれるわけではなく、十分な追試が行われていない研究を確たる証拠のように扱ったり、研究の結論を拡大解釈したりしてしまう風潮に対して、最初に注意を促している。
その点でも、僕のような初学者にとってはみだりに衒学的になることを戒めてくれる良書だと思う。


残念な点としては、書かれた年が1990年(その後1998年に大幅に増補した二版が発行され、本書はこの二版の訳である)であるため、2015年現在では、さらなる知見がもたらされている可能性がある。

しかし、心理学にかぎらず、こうした研究はいくつもの実証研究によって支持されることで初めて基本的事実として合意されるのであり、書かれた時点で過去の大量の研究から信頼できる示唆を得ている本書の価値は、さして変わらないと思われる。

特に興味深かったのは、様々な子どもの不健全な発達における、環境―素因という古典的な対立に対し、積み上げられた研究はいずれも環境と素因(気質)の組み合わせから要因を考えなくてはならないことを示していることである。

これは現場に携わる者としてはすなわち、子どもの可能性というものを信じる拠り所であり、同時にまるで全ての責任を親、特に母親に帰属させることを強く戒めるものである。

愛着形成がうまくいかなかったからといって、全ての人が愛着欠損性格になるのではない。
また、乳児期、幼少期のトラウマ体験も、その後の家庭環境次第で影響は克服されうる。

明快な結論を求める人にとっては、どこか釈然としない話かもしれないが、結局それぞれの分野、段階で子どもの発達に携わる人々が、それぞれやるべきことをやるしかないということなのである。
そしてそれは、決して悲観的な結論なのではなく、それぞれの仕事に十分に意味があるという未来ある啓示なのである。

厳密な科学的知見というより、なんだか勇気を貰えるような本である。

0 件のコメント:

コメントを投稿